2007/11/07 (Wed) 11:26
シナリオ『CHARINKO!!』

   登場人物
 飯塚 千明(17)高校2年生
 鈴鳴 琴音(17)千明の友達
 上川 春(17)千明の友達
 池崎 明良(17)千明の友達

 ヤンキー(36)
 ボス(58)
 選手(28)
 おばちゃん(40
 おっちゃん(40)
 おじいちゃん(78)

 友人たち・中年の男女・不良少年・ごつい男・子供とその母親・駅員






○鈴鳴家・琴音の部屋
   すっかり片付けられて、何もない部屋。ドアの前に立ち、鈴鳴琴音(17)が寂しそうに部屋を見つめている。
琴音「……」
琴音、涙をぬぐい、一礼して部屋を出る。

○マンション5階・飯塚家・前
   中から目覚まし時計の音がするが、止まる。
セミの鳴き声がする。

○鈴鳴家・前
   荷物を持って出てくる琴音。
   家の前では数人の友人が待っていた。
琴音「みんな……」
   琴音、弱弱しく微笑み、友人たちの前に来る。
   涙を流したり、別れの言葉を言ったりしている友人たちの真ん中に、上川春(17)と池崎明良(17)がいる。
春「元気でね。また連絡ちょうだい」
   春、笑顔で琴音の肩をたたく。
琴音「うん、絶対する」
   琴音、頷きながら、きょろきょろする。
春「(呆れて)あいつなら来てないよ」
明良「まぁ、こういうの苦手なやつだからな」
琴音「そう……」
   琴音、うつむく。

○マンション5階・飯塚家・前
   中から携帯の着メロが聞こえてくるが、切れる。
   のどかな風景。

○鈴鳴家・前
   携帯を耳に当てている明良。
明良「あれ、切れた。あのやろー」
春「ったく、何やってんだか」
琴音「いいよ、もう。そろそろ行かなくちゃ」
   琴音、友人らに向かって一礼する。
琴音「ばいばい」
   手を振る友人たち。
明良「またいつでも遊びに来なよ」
琴音「うん」
春「待ってるから」
   琴音、笑顔で頷き。タクシーに乗り込む。
   走り出すタクシー。

○マンション5階・飯塚家・前
   セミの鳴き声。
   静かな風景。
   ゴトンと物音。
千明の声「あぁああー!」
   バタバタと音がして玄関のドアが開き、飯塚千明(17)が飛び出してくる。同時にサンダルが飛び出して、下に落ちていく。
   千明、携帯を操作しながら走る。
ヤンキーの声「(下のほうから)いてっ!」

○タイトル
   『CHARINKO!』

○鈴鳴家・前
   帰ろうとしている春の携帯が鳴る。
春「(出て)もしもし。あ、千明」

○マンション・エレベーター前
   エレベーターの前で焦って、何度も下へ行くボタンを押している千明。
千明「何で迎えに来てくれねぇんだよ!」
春の声「何で迎えに行かなきゃなんないのよ」
千明「ああ、もう。あいつは、琴音は?」
   エレベーターの扉が開く。中年の男女がものすごく絡まっている。
春の声「さっき家を出たとこよ」
   愕然とする千明だが箱に入る。
   閉まる扉、しかし閉まる寸前で千明、飛び出してくる。
千明「無理だぁ!」
   千明、走り去る。
春の声「はっ? 無理なんて言わない。まだ間に合うかもしれないでしょ!」
   まだ絡み合っている中年男女。

○タクシーの中
   寂しげにうつむいている琴音。小さなクマの人形を見つめている。
琴音「……」
   琴音、人形を握り締める。

○マンション・階段
   電話しながら走って降りていく千明。
千明「何分発の電車か分かるか?」
   千明、階段を何段も飛ばして飛び降りる。
千明「(驚いて)えっ」
   千明、一瞬固まり、携帯の時計を見る。十三時二分である。
千明「……三十分に出るの?」
   携帯の時計、三分に変わる。
春の声「ちょっと、諦めるつもり?」
千明「でもここからじゃ1時間はかかるんだぞ」

○道路
   ギュッとこぶしを握る春。
春「直接言うって決めたんでしょ」

○マンション・階段
   肩で息をしている千明。

○タクシーの中
   クマの人形を抱きしめる琴音。
琴音「千明くん……」

○道路
春「黙って走りなさい!」
   周りの友人たちが千明の怒鳴り声に驚く。

○マンション・階段
   千明、携帯を閉じ、走り出す。ヤンキー(36)とすれ違う。
ヤンキー「アブねっ!」
   ヤンキー、千明の足を見て、手に持ったサンダルを見て驚く。
ヤンキー「あ!」
   千明、更に下へ。

○マンション・前・駐輪場
   千明、走って自転車の元へ行こうとして、サンダルが飛んできて、足にぶつかり激しくこける。
千明「いってぇ!」
   千明、サンダルを拾って、振り返る。
千明「誰だ、おら! って、あ……」
   千明、急に怖気づく。
   かなり怒っているヤンキーが歩み寄ってくる。
ヤンキー「そのサンダルがわしの頭に落ちて来たんやけどなぁ」
   スキンヘッドのヤンキーの頭にはサンダルの底の跡がついている。
千明「え、それが、どうかした……どうかしましたか?」
   ヤンキー、千明の足を指差す。
   千明、足元を見ると、左足と右足で違うサンダルを履いている。その片方と手に持っているサンダルを見比べると、一緒のものである。
千明「……あ、ありゃあ?」
ヤンキー「お前のやろ」
千明「え、あ、わざとじゃ……」
   ヤンキー、拳をボキボキしてる。
千明「す、すみませんでした!」
   千明、自転車のもとへ走り出す。
ヤンキー「待ておら!」
千明、奇跡的なスピードで自転車の鍵をはずし、乗り込み、走り出す。
隣で自転車を出そうとしていた不良少年、驚く。
不良「おら、おめー、さっきひじ当たったぞ」
   ヤンキー、不良少年の元へ。
ヤンキー「そのチャリ貸せ」
不良「はっ? 何言ってん」
   ヤンキー、不良少年が言い終える前に不良を殴る。
   鼻血を出して倒れる不良。

○タクシーの中
   琴音、ぼんやりと外を眺めていると、携帯が鳴る。
琴音「(画面を見て)千明くん!」
   琴音、表情がぱっと明るくなって電話に出る。
琴音「もしもし? 千明くん?」
千明の声「あ、琴音?」

○道路
   歩道をものすごいスピードで自転車をこいでいる千明、すごく青白い顔である。
   後ろからヤンキーが追いかけてくる。
ヤンキー「死にさらせぇ!」
   ヤンキーの上着が飛んでいく。
千明「ごめん、見送り、ちょっと遅れる」
   千明、後ろをちらりと見ると、上半身刺青だらけのヤンキーが見えて唖然とする。
琴音の声「そうだったんだ。やっぱり来てくれるんだ」
千明「ギリギリになるかもしれないけど!」
   泣き出しそうな千明の前に、ふらふら自転車をこぐおばあちゃんが見えてくる。
千明「!」

○タクシーの中
   嬉しそうに電話している琴音。
琴音「私ね、千明くんに渡したいものがあるの」
千明の声「俺も」

○道路
   千明、歩道を出て、車線を横切って向かい側の歩道へ。再び全力疾走する。
千明「俺も琴音に、どうしても、言いたいことがあるんだ」
   後ろでわめいているヤンキー。

○タクシーの中
   少し赤くなる琴音。
琴音「え、何?」
千明の声「直接言うから、待ってて」
琴音「(笑顔で)うん」
   琴音、クマの人形を見つめる。

○道路
   走っている千明、携帯をしまう。
追うヤンキー、下駄を投げてくる。
千明「うわっ」
   しかしぎりぎり千明に当たらず、むしろヤンキーが当たりそうになる。
ヤンキー「あぶねっ」
千明「こ、殺されるぅ〜!」
   千明の前方で物陰から真っ黒な高級車が出てくる。
千明「!」
   千明、急ブレーキして、車に当たるぎりぎりのところで止まる。
   ヤンキー追いついてきて、千明を自転車から無理やり降ろす。
ヤンキー「捕まえたぁ」
   ヤンキー、千明を殴ろうとする。
ボスの声「おい」
   ヤンキー、ビクッとして手を止め、車を見る。
   車の後部座席の窓が開き、ボス(58)が現れる。長いマフラーに葉巻。ヤンキーを睨みつける。
ヤンキー「ぼ、ボス!」
   ヤンキー、千明を放して頭を下げる。
ボス「お前さんよ、何してんだ、そんなガキ相手に」
ヤンキー「(怯えて)え、こ、こいつが俺の頭にサンダルをぶつけたんですよぉ」
   ヤンキー、そう言って頭の跡を見せる。
ボス「ガキ、それで、謝ったのか?」
千明「あ、謝りました!」
ボス「そうか」
   ボス、あごで車内の者に指示を出す。
   車から2人のごつい男が現れる。
ボス「俺たちはチンピラじゃねえんだぞ」
   ヤンキー逃げようとするが2人につかまり、物陰に連れられる。殴られる音、うめき声、ボキっという音。
ボス「しかしな、ガキ」
   千明、怯えている。
ボス「お前さんもお前さんだ。もう少しでこいつにキズがつくとこだった」
千明「す、すみません……」
ボス「何でそんなに急ぐ?」
千明「と、友達が待ってるんです!」
ボス「友達? その友達のためなら、車にぶつかるかもしれないような危険を冒してもいいってのか?」
千明「どうしても、会わなくちゃならないんです」
   千明、まっすぐボスの目を見る。
ボス「……そう、か。そんなもんのために命を賭けれたら、立派だな。行っていいぞ。だが、あんまり迷惑かけんじゃねえぞ」
千明「は、はい!」
   千明、頭を下げてからすぐさま出発する。見送るボス。
ボス「ガキのくせに、たいした志だぜ」
   ボス、葉巻を外に捨てる。戻ってきたごつい男がそれを拾って携帯灰皿にしまう。

○交差点
   猛スピードでやってきて赤信号を渡ろうとするが、車が来たので慌てて止まる千明。携帯の時計を見る。十三時十三分。
焦って信号を待っている千明の隣に、競輪の選手みたいな人(以下、選手)(28)がやってくる。
選手「君、いい走りをしているな」
千明「え、俺?」
選手「それに、目が、普通のやつと違う」
千明「(無視して)……」
選手「君と走れば、やり直せそうだ」
千明「はい?」
選手「俺に、失った自信を取り戻させてくれ」
千明「……あのう、俺急いでるんですけど」
選手「それでいい。信号が青になったらスタートだ」
   青信号が赤になる。
選手「レディ……」
   千明、青信号になる前に走り出す。
選手「(驚いて)! 君、なんてことを!」
千明「なんなんだよぉ……」
   千明、猛スピードで坂道を走る。
   選手、後ろから追い上げてくる。
選手「僕はプロだ! 負けんぞ!」
   選手、千明と並ぶ。
千明「うっとうしいなぁ!」
選手「君は何故走る?」
千明「は? 急いでるからだよ」
選手「では何故急ぐ?」
千明「会いたい人がいるんだよ! 今会わないと、絶対後悔する! ってなんでこんなこと言わなくちゃ」
   選手、涙を流している。
千明「えっ、ええ?!」
選手「僕は、僕は……そうだ、思い出した。僕は死んだ父さんのために……」
千明「?」
   千明、無視して自転車をこぐ。
選手「有難う! 僕について来るんだ!」
千明「はぁ?」
   選手、ぐんぐんスピードをあげていく。
   千明も懸命に走り、選手を追い抜くと選手がまた追い抜く。すると千明もとばして並ぶ。

○橋
   とぼとぼ歩いているおじいちゃん(78)の横を猛スピードで千明と選手が駆け抜けていく。

○道
   自転車をこいでいる千明と選手。
   選手の前に子供が飛び出してくる。
選手「!」
   選手、急ブレーキをしてこける。
   後ろから来た千明、止まる。
千明「だ、大丈夫ですか!」
選手「止まるな!」
千明「!」
選手「自転車から降りるときは、ゴールした時だ! それと赤信号!」
   選手、怪我をしたようで、顔を歪める。
千明「救急車を……」
選手「それくらい自分で呼ぶ。君は行くんだ」
千明「……はい!」
   千明、自転車をこぎだす。
   選手、微笑んで千明を見送る。
選手「間に合う。絶対に」
子供「おじちゃんあぶねーだろぉ」
   子供、腕を組んで選手を睨む。
選手「こういう時こそ僕たちは、無茶するもんさ」
   子供の後ろから怒った母親が現れる。
選手「……すみませんでした」

○海岸沿いの道
   汗だくになって懸命に自転車をこいでいる千明、海を見る。

○(回想)同じ海岸沿いの道
   千明と琴音、2人乗りしている。
千明「なあ、琴音」
琴音「なに?」
千明「来週、行っちゃうんだよ、な」
琴音「……うん」
   黙る2人。
琴音「ごめんね、千明くん」
千明「何で謝るんだよ。別にまた会えるだろ」
琴音「……そう、だね」
千明「あのさ」
琴音「ん?」
千明「えっと……やっぱいいや」
琴音「何よそれ〜言ってよぉ」
千明「いいってまた今度」
琴音「今度って、ずっと、ずっと先になるんだよ」
千明「……」
琴音「……」
   静かに音をたてる海。(回想終わり)

○海岸沿いの道
   自転車をこいでる千明。
千明「くそっ……くそっ……」
   いっそうペダルをこぐ足に力をこめる。

○細い道
   自転車をこいでいる千明。
   車がクリーニング屋の前に止まっている。クリーニング屋の看板があって、その看板と車の間はかなり狭い。
千明「ここで止まるわけには……!」
   千明、少しスピードを落とすだけでその間を通りに行く。ハンドルが看板に引っかかり、バランスを崩す。車にも当たる。
千明「うあっ」
   千明、自転車ごと前にこける。
   クリーニング店からおばちゃん(40)が出てくる。
おばちゃん「ちょっとちょっとぉ!」
   おばちゃん、車を見て驚く。
おばちゃん「あ、ああ、あ〜!」
   車に傷がついている。
   千明、自転車を起こす。
おばちゃん「ちょっとあんた」
千明「すみません! でも今急いで」
   千明、息を切らして喋ったので咳き込む。
おばちゃん「急いでてもねえ、人さまの車に傷つけといてさっさと行っちまうつもりかい。そんなの許さないよ」
   運転席のサングラスをしてるおっちゃん(40)、その様子をじっと見ている。
   千明、すごく辛そう。
千明「と、友達が、遠くに行っちゃうんです。だから……」
おばちゃん「だまらっしゃい! こっち来な」
   おばちゃん、千明の腕を引っ張る。
おっちゃんの声「待ちなさい」
   千明とおばちゃん声のした方を向く。おっちゃんが車から降りている。
   おっちゃん、千明のもとへ行く。
おっちゃん「そんなに大事な友達なのか?」
千明「はい」
おっちゃん「今会わないと駄目なのか?」
千明「今会わないと、絶対に、後悔するんです」
   おっちゃん、千明の目をじっと見る。
おっちゃん「(おばちゃんに)離しなさい」
おばちゃん「でも、あんたぁ」
おっちゃん「若いうちに、後悔は残すもんじゃない」
   おっちゃん、千明を見る。
おっちゃん「行きなさい。だが、絶対に悔いは残しちゃいかぞ」
千明「はい! 有難うございます」
   千明、急いで自転車をこぎだす。
   あっという間に見えなくなる千明を見送るおっちゃんとおばちゃん。
おっちゃん「走れ。若造」
おばちゃん「あんたさぁ、どうせなら車で送ればよかったんじゃないの?」
おっちゃん「あっ」
   口が開いたままになるおっちゃん。
   クリーニング店の時計、十三時十七分をさしている。

○小さなグラウンド
   数人の子供たちが野球をしている。
   木陰のベンチに座っている春と明良。
春「千明、ほんとに追いかけてんのかな」
明良「お前が諦めるなって言ったんだろうが、何今更後悔してんだよ」
春「まぁ、そうなんだけどさ」
   春、空を見上げる。
明良「お前、千明のこと好きだもんな」
春「……」
明良「ほんとは、琴音がいなくなって」
春「千明はさ、多分どんだけ離れても琴音だけなんだと思う」

○商店街
   人が大勢いる中、自転車を飛ばす千明。
春の声「じゃなきゃ、追いかけないよ」
   千明、必死の形相。色んな人に怒鳴られている。

○小さなグラウンド
   微笑する春。
明良「千明かっこいいな〜」
春「かっこわるいよ。こんな日に遅刻だもん」
明良「でもそこもいいんだよな」
春「うるさいっ」
   春、明良の頭を叩く。
明良「いて」
春、立ち上がる。
明良「どこ行くの?」
春「ちょっとそこまで」
   春、転がってきたボールを思い切り投げる。

○タクシーの中
   クマの人形を見つめている琴音。

○(回想)道(夜)
   自転車を押している千明と琴音が歩いている。
千明「引っ越す?」
琴音「うん、親がね、けっこう忙しい仕事してるんだ……」
千明「そうなんだ……」
琴音「せっかく友達いっぱい出来たのになぁ。こんなに楽しい学校はじめてだった」
千明「いっそ1人暮らししてみれば? そしたら皆で琴音ん家遊びに行けるし」
琴音「あ、それいいね」
千明「だろ? でさ、ずっとここに」
琴音「でも、親が許してくれないだろうなぁ……」
千明「……別に、親の言いなりになることないじゃんか」
琴音「言いなりってわけじゃないよ」
千明「……ごめん」
琴音「暗いし、早く帰ろっか。乗せてよ」
千明「うん」
   琴音、千明の後ろに乗る。
   千明、クマの人形を差し出す。
琴音「?」
千明「誕生日プレゼント」
琴音「あっ」
   琴音が人形を受け取ると、千明が自転車をこぎだす。
琴音「うわっ」
   恥ずかしそうな千明の横顔。
   琴音、にっこりする。
琴音「ありがとう」
   琴音、少し千明の背中にもたれる。
   (回想終わり)

○タクシーの中
   クマの人形を見つめている琴音。
   停止するタクシー。
運転手「着きましたよ」
琴音「……ありがとうございました」
   琴音、タクシーを降りる。

○駅・前
   タクシーから降りてくる琴音、駅を見上げて、後ろを振り返る。
琴音「……」
   琴音、駅に歩いていく。

○線路沿いの道
   強い日差し。
   自転車をこいでいる千明、スピードが落ちている。
   汗だくの千明、目がうつろである。
千明「はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……」
   千明、それでもこぎ続ける。が、油断して大きめの石を踏んでしまう。
千明「!」
   千明、勢いよくこける。
   がしゃんと倒れる自転車。
   うつぶせに倒れる千明。
千明「いって……」
   倒れたまま動かない千明。
おじいちゃんの声「大丈夫かね?」
   千明の横にベンチに座ったおじいちゃんがいる。
   息切れて答えられない千明。
おじいちゃん「だいぶ走ってきたみたいじゃのう」
   千明、携帯を出して時間を見る。十三時二十八分になる。それを見て俯く。
おじいちゃん「もう走られんか?」
千明「はぁ……はぁ……」
おじいちゃん「いいのかい?」
千明「……」
   遠くからバイクの音が聞こえてくる。

○駅・改札
   琴音、切符を入れて改札を通っていく。

○線路沿いの道
   倒れている千明。
   ベンチに座っているおじいちゃん。
おじいちゃん「諦めるのかい?」
千明「……」
おじいちゃん「何のためにここまで来たんだい?」
千明「……」
琴音の声「待ってる!」
   千明、力を振り絞って立ち上がろうとする。
   バイクの音が近づいてきて、千明の横にバイクが止まる。
千明「?」
   千明が顔をあげると、バイクに乗っていたのは春だった。
春「馬鹿! 何でチャリなのよ!」
千明「は、春……?」
春「行くよ!」
   春、千明にヘルメットを差し出す。

○駅・ホーム
   やってくる琴音。

○線路沿いの道
   バイクに2人乗りしている千明と春。
春「あんたほんと馬鹿ね。チャリで間に合うわけないでしょ!」
千明「う、うるさいよ!」
春「タクシーとかにしたら良かったじゃない」
千明「慌ててたんだよ!」
春「何で?」
千明「琴音が行っちゃうからだよ!」
春「そっか……」
   春、少しうつむく。
千明「えっ?! 何?!」
春「うるせえ!」
   電車が後ろから迫ってくる。
千明「来たぁ!」
春「うるさーい!!」
   春の目に涙。
   春、バイクのスピードを上げる。
   電車、バイクを追い抜いていく。

○駅・ホーム
   電車が来る。
   座っていた琴音、立ち上がる。

○同・前
   すごいブレーキ音をたてて千明と春の乗ったバイクがやって来て止まる。
   千明、降りて少し行ってから、戻ってくる。
千明「へ、ヘルメット……」
春「そんなのいいから! 走れ!」
   駅の時計が十三時三十分をさす。

○同・ホーム
   電車の扉が開き、琴音少しためらうが乗り込む。

○同・改札
   ヘルメットを投げ捨てて走ってくる千明、改札を飛び越えてこけそうになる。
   驚く駅員。
駅員「おい!」
   千明、そのままホームへ全力疾走。

○電車の中
   俯いている琴音、ひざの上にクマの人形を置いている。
アナウンス「扉が、閉まります。ご注意下さい」
   扉が閉まろうとして、閉まる寸前で開く。
   琴音、はっと顔を上げる。
   乗ってきたのは中年の男性だった。
琴音「……」
   琴音、俯いて人形を悲しげな目で見下ろす。
   扉が閉まり発車する電車。
   寂しげな琴音の横顔。
   車両間の扉を開く音がする。
琴音「……」
   琴音の横に誰かが座る。
千明の声「琴音」
   目を見開く琴音、隣を見ると汗だくの千明がいる。
琴音「あ……」
千明「ごめん、ギリギリで」
琴音「千明、くん……」
   琴音、目にじわっと涙。
千明「あつ〜」
琴音「来て、くれたんだ」
千明「う、うん」
琴音「(驚いて)その傷どうしたの?」
   千明の顔の側面にすり傷。
千明「いや、まぁ、ちょっとね」
琴音「大丈夫なの?」
千明「うん、大丈夫」
   ぎこちない沈黙。
琴音「あ、これ」
   琴音、かばんから小さな猫の人形を取り出す。
琴音「クマのお返し。千明くんの誕生日まだ だけど……」
千明「ありがとう」
   千明、人形を受け取る。
千明「手作り?」
琴音「うん」
千明「……大切にする」
琴音「うん」
   千明、じっと猫を見つめる。
千明「(琴音を見て)あのさ」
琴音「うん?」
   琴音、千明を見る。
   目が合う千明と琴音。
千明「俺……」

○次の駅
   電車がやってくる。
   千明、降りてくる。
   琴音は電車の中、扉のぎりぎりのところにいる。
   千明、琴音を振り返る。
千明「じゃ、元気で」
琴音「うん、バイバイ」
   見詰め合う千明と琴音。
アナウンス「扉が閉まります、ご注意下さい」
   千明、一歩下がる。
   琴音、千明の腕を引っ張る。
   千明と琴音、キスをする。  (終)

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テーマ : オリジナルシナリオ - ジャンル : 小説・文学

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